今は名人、達人の時代ではなく、広く浅くの時代。
プロや一流の人がいるにしても、身近には余りいなく、遠い存在だったりもするでしょう。
そうした人たちからの直接の指導を受けることは難しくても、記録が残されていて、それを紐解けば、指導を受けることは出来る。
大東流合気柔術と呼ばれる合気道の元にもなった武道で、佐川幸義という、武道マニアには知られた達人がいるのですが、その方の教えは、武蔵の五輪の書のように、武道に関係のない人であっても、参考になるところがあると思います。
『「透明な力」木村達雄著 講談社』から参考になりそうなところをいくつか引用し、私なりに解説してみました。
これで良いと思ったとたんに芯がとまってしまう。もう考えなくなって進歩がとまってしまうのだ。これではだめだと常に考えていると色々な考えが出て来る。絶対にこれで良いと思わないことだ。武術はきびしいのだ。
p144
自信を持つことによって、進歩するのであればいいが、自信を持つことによって、間違いを修正出来なくなっている、いいものを吸収できなくなっているなど、進歩を妨げる自信であればない方がいい。
みんなちょっとできるようになるとすぐ休んでしまうがそうすると勘がなくなりすぐ後退してしまう。みんな最初の頃は五、六年も一生懸命やれば何とかなると思うのだが、やってみると全然だめで何年やっても私のように出来ない。
p161
最初経験がない内は、自分もやってみれば、もしかしたら出来るようになる、上手く行くようになると思ったりもするのだけど、5,6年経った頃にそうではないことに、気づきだす。その前に早く気づいて、違う考え、方法に取り組みたい。
やるべき時にやらなければだめなのだ。時機を失してはだめだよ。あとからではもう遅いのだ。
p162
次というのは、基本的にないと思って行動しないと、後悔することになる。
結局勘の悪い人はいくらやってもできないよ。よく昔から熱心にやればいつかできるなんて言っているがそういう事を言うのは凡くらだよ。勝負勘がなかったら切られてしまうよ、わずかの動きの差で生死がわかれるのだ。普通以上の勘がいる。
p172
一生懸命努力したとしても、必ずしも思ったような結果にはならない。努力の仕方、直感、感性を大事にし、努力すれば結果を出せるという考えは持たない。
できないものをくり返したって例え夜中じゅうやってもできないよ。くり返しているうちにいつかできるようになると思っているようだがそういうものではない。頭を使い考えなくてはいけない。そういう所で頭を使うのだ。ただくり返していればうまくなるという甘いものではない。
p170
出来ないものは出来ない。量の問題だけはなく、質についても考える必要があり、それには頭がいる。頭を使い考えられないと、一生懸命やることにそのものにこだわことになる。
頭を使って工夫しなければいけない。今までやっていても良くないと思ったら捨てる。こだわってはいけない。
p181
工夫、ひらめき、切り替えが大事。。今まで努力して築き上げたものであったとしても、それが良くないものであれば、拘らずにいいものに切り替える。
自分は強くなってきたと思っているようだが、そう思うこと自体、もう進歩に影響が出てしまい既に負けているのだ。先輩たちが本気で抵抗したら出来ないのだからそれで強くなったと思う方がおかしい。
p182
上手くなってきたり、出来るようになってくると、自分は凄いと思ったりする。出来なかった自分がここまで出来るようになったのだから、次もきっとできるようになるはずだ、という考えならいいが、少し出来るようになったことに自信を持ち、凄いと思っていたのであれば、プライドが出来ているため、次の進歩の妨げになっている。もっと凄い人は数えきれないほどいる。
決してこれで良いと思ってやってはいけない。これではまだまだと思いながら研究を続けていくのだ。私は九十歳を過ぎてもまだ研究を続けているのだ。五十歳や六十歳でこれで良いなどと思ってはいけない。
p183
進歩に終わりはない。50、60でもまだまだで、達人は90歳を過ぎても研究を続け、進歩している。
自分が一生懸命精一杯やっているからそれで良いと思いがちだが、そのやり方そのものが良いかどうかについて考えが及ばなければいけない。ただ努力をすればよいとは限らないのだ。常に自分のやり方もこれではまだまだと思ってやっていかなければならない。人のふり見てわがふり直せというでしょう。
p185
一生懸命になると、「私は一生懸命やっています!」となる。そうではなく、どういうやり方で一生懸命にやっているのかが大事で、間違った努力であれば、どんなに一生懸命努力しようとも、思うような結果にはならない。やり方そのものが良いかどうかを考えなければならない。
素振りでもなんでも、ただやればいいものではなく、ダメな努力なら、100万回やってもダメなまま。