イチローと毎日野球をやると約束して、一年365日、四年間もの間、マンツーマンで野球をやるようになったお父さん。
その他も、バッティングセンターに月4,5万円ものお金をかけ、それを中学卒業まで毎日七年間通い続け、また朝晩の足裏マッサージも、同じく中学卒業まで7年間毎日行っていましたが、やっていたことはまだあります。
それは部活の練習を毎日見学に行くこと。
本来なら、子供が本格的なクラブ活動を始めた段階で、後は指導の先生にお任せして、親の役目は終わりになるのだろうが、私の場合は違った。
毎日放課後、イチローの学校での練習を見に行くことにしたのだ。また仕事の都合がつけば、早朝練習を見にいくこともしばしばあった。
もちろん私としては、別に、監督さんの指導法に口出しをしようとか、練習無い様に関与しようなどという気はさらさらなかった。何らかの理由でイチローが野球をやめるようなことがあってはいけないという心配から、毎日どんな練習をしているのか、何か困った問題が起きていないかを知っておきたかった。常にイチローのそばにいて、イチローに視線を注いでいたかったのだ。
今であれば、子供に熱心な親も多いので、もしかしたら似たようなことをしている親もいるかもしれません。しかし形は似ていても、多くの場合、やっていることの本質は、違っているでしょう。
私の所定の位置は、バッターボックスがよく分かるバックネット裏に近い一角で、校庭に隣接した一般道路だった。意外と思われるかもしれないが、イチローが中学にいた三年間、試合を除いて、平日の放課後と早朝に行われる練習を見学するとき、私はただの一度も校庭の中に入ったことはない。
また、何かによりかかったり、座りこんだりするようなこともなかった。ときには腰が痛くなることもあったが、イチローが練習をやっている間は、私は二時間でも三時間でも立って見るようにしていた。
わたしの目的はイチローの練習を見ることであり、あくまでも個人の楽しみで行ってるわけだから、義務教育の場である中学の校庭内に図々しく入っていくのは控えようと考えた。また、部員たちに変に誤解されてもいけないから、こちらから監督に声をかけることも避けた。
そういったけじめだけはつけた。もし私が毎日グラウンドに入って練習を見ていたり、親しげに監督と話をしていたら、部員たちはどう思うだろう。
「鈴木のお父さん、毎日何しに来てんだ」
「あの親父、監督にゴマをすってるんじゃないか」
というように勘繰られないともかぎらない。結果としてイチローにいやな思いをさせてしまう。そういったことだけは避けたかった。
溺愛 我が子イチロー 鈴木宣之著 小学館